第16話 天国の扶養家族

 ネパールにいた間、毎日何をしていたのだろうか、近くをぶらぶらして過ごしたに違いない、間違いないのは毎日ガンジャを吸った、と言う事だ、タバコを吸うより安かった、(左の写真を見てオッと思った人、あなたもやりましたね)、15Cm程で石製のチュロムというもので大麻を吸うのに使っていたものだ、当時はどこででも吸えるよう、マッチなどと一緒に小袋に入れ、首に吊り下げていたものだ。

当時のネパールの法律がどうなっていたか知らないが、おおっぴらにやっていた、ある時など街中でお巡りさんと憩いの一時を過ごした事もあった、入獄って話は聞かなかったが、入院って話はあった、それが原因でおかしくなったという噂の人間は日本人も入れて何人か目撃した、幸いな事に私達も毎日の様に吸っていたが、そうならずに済んでいる、当時のルームメイトは、今、日本で清く正しい生活をしている。

 この年だったかは定かではないが日本大使館の新年のパーティに行った、当然招かれたわけではない、おしかけたのだ、寿司、天ぷらの日本食だ、日本酒もある、招いた客より招かざる客の方が多かったんじゃないかと思う、始めは大人しかった我々風来坊も酒が効いてきたせいもあり、20人程が酒ビンを手に庭に出て車座になって飲み始めた、日頃、大使館に行く度に、嫌味ったらしい事を言われていたので、酒の勢いもあり、大使出てこ~い、だのと騒いだ、大使も嫌がらずに(?)我々と酒を酌み交わした。

 各国にある日本大使館でこのようなパーティをやるみたいだが、在留邦人の多い所では、このような事は無いと思う、その後、招待状が来ないのを幸いと遠慮させてもらっているので、最近の事情は知らない。

 つい話しが脱線してしまって申し訳ない、扶養家族の話だ。
 ある日、我々は大変な扶養家族を抱えているのに気づきゾッとした。虱(シラミ)だ!、長い事風呂にも入っていない、我々が借りた部屋にはその様な設備はなかった、水など浴びられる季節ではない、南京虫には遭った事があるが、虱は初めてだった、ネパール人やチベット人はよく陽だまりの中に座り互いの毛虱を動物園のサルよろしく取り合っている光景をよく見る、彼らも風呂にはあまり入らない様に思う。
 ジーンズの縫い目からパンツ、シャツに至るまで縫い目という縫い目にびっしりと虱とその卵が行列をしている、陽にかざすと卵がキラリとしてきれいだ、そんなものに感動している訳にはいかない、どうにかせねば。
 何分後か数時間後だかに、われわれはモンキィテンプルとカトマンズ市内の間にある河原にいた、空缶を持って、天国には似合わないが奴等を釜茹でにしてやる、断固許すわけにはいかないのである。

 缶に水を入れ、その周りで焚き火をする、沸いて来たのを見計らい、着ていた物を脱ぎ缶に入れ、棒でつついたりかき回したりする、瞬く間に層を成すほど浮き上がった、我々の方は決死の覚悟で水浴びをした、冷たいなんてもんじゃない、びりびりする、しばらくすると体中もうもうとした水蒸気に包まれた。
 この光景を見ていた人がいたかどうか知らないが、いたら何事だろうと思ったに違いない。

 ようやく不要家族(今度は変換がうまくいった)と縁が切れた。

 90年代に行った時に、その場所を探したがすっかり変わり特定出来なかった、河原もゴミだらけになり水もきたない、確実に自然は破壊され続けている。

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