第9話 ロールキャベツ

 イスタンブールで身軽(?)になった私は、これからどうしたらいいのか考えてみた、ここで引き返す事も考えたがヨーロッパを目の前にして引き返すのも面白くない,もう少し先まで行ってみよう、まだお金はある、東欧を周って来たヨーロッパ人が、そこには旅行者レートというものがあり,公定レートの数倍で換金してくれる、と言っていたのを思い出し、東欧を周る事に決めた。

 確かに、旅行者レートがあり公定レートの4倍にもなった国があったが、それなりでちっともお金持ちになったとは思わなかった。ルーマニアではホテルが高くてトラベル・オフィス(左の名刺)のお姉さんにどうにかしてくれと泣きついた、色々と安いホテルをあたってくれたが折り合いがつかない、それではと彼女の知り合いで泊めてくれそうな人を電話で探してくれた、どうにか泊めてもよいという人が見つかり、名刺の裏に書かれた住所を頼りにそのアパート(?)へ向かう。そこは古びた建物の2階だったか3階だったかの一部屋で、3,4歳ぐらいの男の子と夫婦の3人家族だった。まったく英語は通じないがどうも私が手ぶらなのが気にかかるらしい、それに11月になろうとしているのに半袖シャツ(第3話の中央の写真:向かって一番右端が私:の服装だった)である、イスタンブールで荷物を盗られた事を身振り手振りで伝えるがわかってくれただろうか。

 東欧はどこも活気のない街としか記憶にない、そんな街を見て歩く気もないので終日男の子と遊んでいた、男の子も飽きずに相手になってくれた、多分昼間は母親と2人きりだし、母親も家事に忙しくあまり相手も出来ないだろうから丁度よい相手だったんだろうと思う、おかげで寒い外にも出ずに済んだ、そんな子供の面倒(?)を看ている私にその家族は食事も出してくれた(泊まるだけで食事は無しという約束だった)、それまでそこらの食堂で一人で食べていたのに比べると格段の差がある、言葉は通じなくとも一家団欒ってのはいい、その夜のメニューがロールキャベツだった、深皿に半分程スープに浸かったそのロールキャベツの美味かった事、日本で食べるそれとは違うと思った。

 そこの主人にカード型ラジオ(手帳ぐらいのサイズでボタン電池:当時では珍しかったと思う)を進呈した、その時の唯一の財産ではあったがとっくに電池切れで使えないし持っていてもしょうがない、色々いじり回した後、ボタン電池は見たこともないし手に入るかも判らないみたいな事になったが、彼は非常にうれしそうだった。

 出発の朝、3人は見送りに下の入り口まで降りて、互いの頬を交互につけて別れの挨拶をした、男の子はなかなか放したがらなかった、それを母親がなだめるようにしている、そういえばこの周りではあまり子供の姿をみなかったな、また一人で遊ぶのかな、ちょっと可愛そうな気がした。

 母親の名は、マリア、住所も判っているが、その後連絡もしていない、そのうち出来たら訪ねてみよう、男の子は私のことなど忘れているだろうが私はあの夜食べたロールキャベツは覚えている、また食べさせてもらえるだろうか。


 

<= 見よ !

 オリエント・エクスプレスにも乗ったのだ、だが残念な事にインドの列車の事は覚えているのに、これはほとんど覚えていない。

    

      

 ブルガリア、ルーマニアの切符、
右端のは何だか解らない。
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